あとはいつ決意するか

上京したい人のために、リアルな上京体験談を発信する上京情報メディア『上京タイムズ』。&Tokyoのコーナーでは「私と東京」をテーマに、読者から寄せられた東京にまつわるエピソードをお届けします。今回の記事を執筆してくれたのは、chammieさんです。

神戸で暮らしてきた私、だけど……

私は大学進学のタイミングで実家を出て、神戸での学生生活をスタートさせた。大学卒業後は大阪の会社を転々とし、大学の同級生と結婚してからは再び神戸に住み子育てをしている。まさか40代後半の現在に至るまで、神戸に住み続けるとは思っていなかった。

住む場所として、そして子どもを育てる環境として、神戸に特別な不満があるわけではない。都会、ましてや東京に住んでみたいなんて、一度も考えたことはなかった。

つい最近までは。

東京のシェアハウスの思い出

これまで東京は、たまに遊びに行くから楽しいところだと思い込んでいた。家賃も物価も高いし、親や地元の友達ともなかなか会えない。帰省するにも、高い料金を払って激混みの新幹線に乗らなければならない。東京で暮らすことは、デメリットしか思い浮かばなかった。

しかし、東京に遊びに行くのはこの上なく楽しかった。20代から、40歳で妊娠するまではほぼ毎年、夏になると東京の友達に会いに行っていた。

20代は、青山あたりで新作の秋物を見ながらぶらぶらするのが好きだったし、30代になってからは花火にドはまりして、東京湾や隅田川の花火を見ることを毎年楽しみにしていた。

30代半ばになり、東京の友達が離婚してシェアハウスに住み始めた。それによって、私の東京での常宿もそのシェアハウスになったのだが、そこには何とも言えない安堵感があった。シェアハウスでは、年齢も職業も出身地も異なる4,5人の女性が生活をともにしていた。

声をかけなくても、みんながなんとなくリビングにぽつぽつと集まり始め、誰かが買ってきてくれた旬のフルーツを食べたり、オリンピックを一緒に見たり、初デートに出かけたシェアメイトの帰りをそわそわしながら待ったりした。一方で、リビングには誰もいないことも多くあり、それぞれが絶妙な距離感で生活していたのだと思う。

毎夏私が訪れると、シェアメイトたちが「おかえり!」「今回はいつまでいるの?」「ケーキ買ってあるから帰ったら食べてね!」などと、実家に帰省したのかと勘違いするほどに歓迎してくれたのは、今でも忘れられない。

本当にいいシェアメイトたちだったので、毎年東京に行くのが楽しみで仕方なかった。私にとって、その東京のシェアハウスはいつも眩しく、夏の故郷のような場所だった。

そしてよくよく考えてみると、私は夏になったからといって実家には帰省していないし、地元の友達とも会っていないことに気がついた。これまで東京に対してデメリットだと感じていたものは、実は私にとって全く関係のないことだった。

そこから40代になり、東京の友達がシェアハウスからワンルームマンションに引っ越したのとほぼ同時期に、私には子どもが産まれ、一人で出掛けることがほとんどできなくなった。

アフターコロナで変化した東京への価値観

出産後、以前のように訪れることができなくなった東京を思い出しながら「まぁ毎年遊んだからもういいか」とも思ったが、そこから数年が経ち、世の中はアフターコロナと呼ばれる時期になった。

そこで東京への熱が再燃した私は、やれライブだの講演会だのと理由をつけては、また東京を訪れるようになった。

神戸・東京間の日帰り旅行を試みたこともある。晩ご飯を買って新幹線で食べるといった弾丸旅行のような雰囲気も楽しかったし、日帰りは不可能ではなかった。

しかし、せっかく東京へ行くからには、数泊してゆっくりしたくなる。美味しいものを食べたり、神社や美術館などのお気に入りスポットに出かけたり。そして欲を言えば、ここで仕事もしてみたい。

アフターコロナの世の中になり、一部の仕事はどこでもできるようになった。少し前まで「場所を問わない働き方」は、限られた人だけができる“理想の働き方”だったが、今は職種にもよるものの、多くの人にその選択肢が与えられている。

現に私もリモートワークをしながら、以前より興味のあったライターの仕事を始めた。それは神戸の自宅でないとできないことではなく、もちろん東京にいても同じように働くことができる。がっつりと住まいを移さなくても、まずは二拠点生活から始めるのもいいなぁと思う。

東京と地方、どちらが正解というわけでもない。今まで東京に住んで仕事をしていたけど、仕事がリモートメインになり、郊外へ引っ越したという話も聞く(こちらの方が多数?)。住みたいところで、したい仕事をする。それが多くの人にとって理想の働き方ではないだろうか。

東京で出会った感動を私の言葉で伝えたい

私は東京に住んだこともないし、子育ても地元とは全く違ったものになるに違いない。いいことばかりでは決してないだろう。しかし、東京に住むデメリットが間違った思い込みであった以上、住んでみたいという思いは日々強くなっている。

東京の魅力とは何か。それは、地方にはない全てが詰まっている混沌の渦であり、感度の核のような場所であることだと思う。現在の生活にこれといった不満もないのに「この場所のままではいけない」と気づかされた。

ものを書いて発信する立場になって初めて、外に出て今まで触れて来なかったものに触れることの重要性を知り、そして自分が好奇心の強い生き物であったことを知った。混沌の渦に飛び入り、感度の核に触れて出会ったものとその時の高揚感を、適時に誰かに伝えたい。

遊びに行くところから住む場所へ。

遊びに行く場所だったという感覚も、住んでみればいつかは無くなってしまう。近いうちに東京で働き、生活をして「そういえば上京を迷っていたなぁ」と思い返す日が来るのを、待ち遠しいと思う。

文・撮影:chammie


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